預かり、綴じて贈る

「掌の記憶」を綴じるにあたって一番感じていたのは、「人の生や記憶を預かり綴じる」という行為の難しさでした。

それまで続けていた「自分の記憶を綴じる」行為とは、まったく違うものです。とにかく、結果的に自分の表現のために誰かの人生を消費したり、利用したりするような形にだけはならないように。そんな想いをこめて「預かる」「綴じる」「贈る」ということばを選び、いつもこのことばに立ち返るようにしています。

「綴じる」のは「預けて」くださった記憶だけ。綴じたものは「贈る」。1冊手元にのこした本も、私のものではなく「預かっている」もの。その意識はこれから先もずっと忘れないように。ここに改めて記しておきます。

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