旅の記憶 – 芦屋 –

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絵本の「原菓展」

初めてお菓子作家のefuca.イトウユカさんとじっくりお話をしたのは、2015年の夏。私のZINE『母のまなざし』を手にとりお声がけくださったことがきっかけだった。

私が母に育ててもらった30年の記憶を娘の視点で綴じて贈ったその本を眺めながら、息子さんや絵本製作への想いを優しく話してくださったユカさん。本に綴じることについて話しながら、いつかお店へお伺いしてユカさんの製作への想いを綴じるいう小さな約束を交わした。

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それから数か月後の2016年5月の夜。兵庫県芦屋市のお店で開かれた3作目の絵本出版を記念した原菓展にお招きいただき、新作の原菓と初対面。

パソコン1つで何でも描けてしまう時代に、本物のお菓子を丁寧に焼き続けて描かれたその世界。見る人の心を一瞬でワクワクさせる夢が詰まっているように感じた。

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お菓子教室からのはじまり

数日後にお店へ伺い、改めて見つめながらユカさんのお話しを伺う。2009年に神奈川県の宮前平で開いたお菓子教室から始まったefuca.。神宮前、代々木上原を経て芦屋へ移転したのは2012年で、息子さんの出産前にユカさんが生まれ育った兵庫県へ帰省した際に、今のお店と出会ったという。

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改装しながら出産を迎え、産後数か月でお店もお教室も再開。お母様の助けも借りながら2階の息子さんと1階のお店を往復する日々の中「引っ越し前に交わしていた出版社の方との約束を実現しよう」と、2013年の夏から1冊目の絵本「さがそ! おかしのくに」の製作を開始。

初期の作品は保存棚が間に合わず、今は絵本の中でしか見ることができないものがほとんどだという。翌年の遊園地編、今回の世界旅行編の3作の絵本を通して39作品。原菓の世界を描くために、作り続けたお菓子は数えきれない。

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お菓子だけで描かれた絵本

「さがそ!おかしのくに~せかいりょこう~」世界中の景色が本物のお菓子だけで描かれた、さがし遊び絵本の3作目。

保護ケースを外して覗き込むと、幅40cmほどの小さな世界にひまわりの種ほどの登場人物が本の中いっぱいに広がっている。クッキーのピラミッド、アーモンドのアルマジロ、メレンゲのパンダ、マシュマロの雪だるま…小さなパンやホットケーキ1つでも、全て本物の材料を混ぜて、焼いて作られたお菓子の世界にどんどん吸い込まれていく。

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「この蝶々も本物のパンで作ってね」と、大きなマカロンの塔の奥の小さな蝶々を指さしてにっこりと教えてくれるユカさん。

日本をイメージした国では琥珀の道や金平糖の空。製作チームのタマゴタマミさんの原画を元に、ユカさんがイメージを膨らませ、美味しそうなお菓子の世界が立ち上がっていく。

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お菓子の絵本の作りかた

かぼちゃ、紫いも、抹茶、ブラックココア、竹炭…自然の着色料もたくさん使う。色とりどりのパーツを作り、1つの国の物語ごとに1週間以上。並べるだけでも丸2日。ピラミッドは土台にクッキー生地を1枚ずつ敷き詰めて焼き、瓦屋根は下から1枚ずつ瓦のクッキーを重ねる。

本物のお家づくりと変わらぬ職人技で築きあげられたお菓子の国。覗き込んだり真横から眺めたり、目線を変える度に絵本の奥に隠れたユカさんのこだわりが見える。

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「このパーツだけ、98歳になる私の祖母と息子にも少し手伝ってもらったの」と真っ白な丸いボールを指さして教えてくれたユカさん。製作チームの方との思い出を交えてにっこりと解説してくれるユカさんの言葉から、みんなで創り上げて形にしていく楽しさが伝わってくる。

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膨らむお菓子とみんなの夢

「みんなにプレゼントしたいものがあって」と撮影を頼まれたアトリエの奥の壁にかかった原菓は、原菓展に来てくださったお客さまと一緒に作り上げた、新たな絵本の1ページ。

絵本の主人公エフカちゃんのパーティーの1コマとして大きな本の枠の中にユカさんが用意した土台に、子どもから大人まで想い想いに創作したその1ページには、個性豊かな動物や人が集まり、あちこちで小さな物語が生まれていた。

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ユカさんの仕上げで夢いっぱいの1枚の作品になった原菓をにこにこと眺めながら、本物の絵本のように探し絵の問題を添えようとスタッフのさよさんと問題を考えるユカさん。

作ってくれた子どもたちを思い浮かべながら、自由に問題を書き込むものも作ろうかとアイデアが膨らむ。一緒に作りながら楽しみ、お菓子もみんなの夢も膨らんでいく。そんなユカさんの作品や人柄の魅力を改めて感じたひと時だった。

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ユカさんのお菓子

「お菓子作りが好き」というシンプルな気持ちに創造のたねが加わって、優しくふんわりと膨らむユカさんのお菓子。

絵本もお店のお菓子も、混ぜたり焼いたり描いたりと自由に作る楽しさが詰まっていて、誰かと一緒に作り贈り食べる度に、楽しい気持ちが伝わっていく。そんな風に手にとった人へと笑顔が広がるユカさんのお菓子に詰まった作り手の想いと記憶の欠片を、ここに贈ります。

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Interview,Writing,Photo :藤田理代(michi-siruve
2016年5月19日取材
*Special Thanks efuca.

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