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2016-04-20

旅の記憶 – 麻布十番 –

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伝統と創造が共にある街

「私の創作活動も、祖母の遺品の着物から始まったのよ」2015年9月、THE TOKYO ART BOOK FAIRで展示していた祖母の遺品で制作したZINE『otomo.』を手にとり、そう教えてくださったデザイナーの小林栄子先生。NPO法人 美・JAPONの理事長として、アンティーク着物をドレスへと蘇らせ、五感で感じる舞台という形で日本の文化を伝えているという。海外を巡る華やかな舞台の原点が、ご家族の遺品をのこしたいという1つの想いから始まったというお話に惹かれ、その原点を綴じようと翌年1月に麻布十番のアトリエに伺った。

生まれ育ちは宮城県で、高校卒業後に服飾を学ぶために東京へ。麻布十番に拠点を移したのは、老舗と呼ばれる昔ながらのお店から若いオーナーの創作が光るお店まで、伝統と創造が共にある街の姿が創作への想いと重なるところがあったからだという。

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想いを描く

物心ついた頃から着たいと思った服のデザイン画を描き、母に渡すといつも翌朝には枕元にそのとおりの服が置いてあった。日中の仕事を終えた後、徹夜で娘の絵を服に仕立ててくれた母の手仕事に「頭が下がるね」と振り返りながら微笑む。

小学校高学年になると、雑誌で見るモデルに自分の創作した服を着せたデザイン画を描くようになり、服飾を学んでデザイナーとしてキャリアを積んだ。結婚後は雑誌のスタイリストを続ける傍ら着物ドレスの制作をはじめ、日本文化を伝えるために世界各国へ。想いを描き、描いた想いを実現していく。その制作スタイルは、原点であるデザイン画でも大きな舞台でも変わっていない。

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*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)

想い出を纏うコスチューム

両親が共働きで祖父母と過ごした想い出も多いという栄子先生。23年前に大好きだった祖母が他界し、遺品の着物を残したいという思いから「想い出を纏うコスチューム」の製作を始めた。江戸や明治、大正時代の着物を創作ドレスへ。祖父の着物や山形で出会ったご家族から譲っていただいたおばあさまの花嫁衣裳など、お預かりした家族の想い出がそのまま作品になっている。

四季の美しさや儚さを愛でる日本の心、職人の技、着継いできた人の想い出を抱き眠っている着物を、ドレスとして再び人々の目に触れる形へと蘇らせる。「日本の文化財をお預かりして創ったものだから」とドレスの販売はせずに、舞台を通して感じていただくという形で世界各国で公演を続けている。

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*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)

着物の流れを生かす

デザインで一番大切にしていることは「元々の流れを切らないこと」。としっとした重みのある兵児帯は一切鋏を入れずにドレープだけでドレスにデザインし、羽織は帯で留めずにそのまま羽織ることで職人の生んだ柄行きの流れをそのままに魅せる。

「反物なら反物、着物なら着物の元々の在り様を崩さないように」素材や柄行きといった着物本来の魅力を見極め生かすことで、布地が舞台の上で自由に風をはらみ、光の粒子を通して生き生きと舞うのだという。加えるのではなく、そぎ落とすことで立ち現れるドレスは、とても日本的な余白と流れをもった独特の存在感をもって、舞台を舞っていく。

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*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)

アーティストとの創作

アトリエに眠るドレスの中でも、一際惹かれるものがあった白と青の衣で作られた2着のドレス。ラックから取り出すだけでもふわりと舞った。2名の書道家と創作した白い衣は、100年前の手紬と昭和の機械織りという年代の異なる生地を合わせることで風をはらみ、染色家と創作した青い衣はジョーゼットと丹後ちりめんを組み合わせることでとても良く光を通す。

「私のドレスは人が纏ってはじめて生きてくるの。舞台上で光の粒子が抜けていく瞬間に、何とも言えない美しい色に輝くのよ」微かに向こう側の景色を透かしながら掌の中で静かに眠るその布地。舞台上で光と風を通して舞う姿を想像すると、その瞬間をおさめたいという気持ちで胸がいっぱいになった。

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*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)

海外公演から国内公演へ

2005年からルクセンブルク、ネパール、トルコ、イタリア、クウェート、フランス、スイス、ポルトガル、アメリカと公演で世界を巡り続けて10年。11年目を迎える2016年は4月に相模大野、10月には京都で5年ぶりの日本公演が行われるという。栄子先生の記憶とドレスにこめられた想いを綴じた麻布十番の「掌の記憶」次は舞台で舞うドレスたちを綴じるという約束を胸に、この本を贈ります。

>>旅の記憶(相模大野)はこちら
>>写真帖はこちら

Interview,Writing,Photo :藤田理代(michi-siruve)
2016年1月取材
*Special Thanks Eiko Kobayashi

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