toggle
2017-06-21

旅の記憶 – 服部 –

photo-hattori168

手織り作家 booworks

booworksの渡邉航一郎さんのことを初めて知ったのは、今から数年前。used livingというWebマガジンで最初に紹介されていた、大阪の手織り作家さんだった。

その渡邉さんが、私の暮らす大阪府豊中市の服部にアトリエショップを移転されたのは、2015年夏のこと。織りに使う手紡ぎの糸も販売されていることを知り、糸を求めてショップのある商店街を訪れると、古いアーケードがなくなり、空き店舗に他にも新しいお店がいくつか開店していた。

お店に入ると渡邉さんが迎えてくださり「この雪景色にあう糸を探していて」と『掌の記憶』音川篇を片手に相談すると、店内にある糸を山ほど集めて一緒に探してくださり、本の話に。記憶を繋ぐ本なのだと伝えると「僕も繋ぐなんですよ」と「手織りで、糸と人を繋ぎます」と書かれた名刺をいただいた。「作家同士、服部で一緒に何か面白いことができたら」とお話をしてから1年。手作り市にお誘いただいたり、TV取材に協力いただいたりと緩やかな繋がりが続き、渡邉さんの『掌の記憶』もお贈りすることになった。

織り機で踊る、500本の糸

豊中で生まれ育ち、服のデザインを学んだ後、京都の川島織物テキスタイルスクールに進み、手織りの道へ。大阪にアトリエを構えた頃、服部の商店街で2階建ての元接骨院が空いたことを知り地元豊中へ移転。改装も自分で行い、アトリエショップと手織り教室としてオープンして、1年数か月が経つ。

まずは手織りの様子を写真におさめようと伺うと、真っ白な経糸が500百本、カナダ製の織り機にセットされていた。「下準備が割と大変で、これで5時間くらいですかね」織り機にかける糸の幅と長さを決めて糸を準備する「整経」の後、織り柄の規則に沿って糸を1本ずつ織り機にかけていく。「僕はこの下準備が好きなんですよね」説明が終わると渡邉さんの織りが始まる。「ガッシャン」「トントン」足元の5本の踏木を踏む度に糸が交互に上下し、現れる糸のトンネルにシャトルをスッと潜らせ、筬で緯糸を整える。物静かな糸や布からは想像出来ないほど弾む様を写真におさめながら「糸が躍ってるみたいですね」と夢中になっていると、渡邉さんの手元にはいつの間にか布が織りあがっていた。

手織り体験の面白さ

「手織りをもう少し身近に感じてもらうために、どんどん外には出て広めていきたくて」と、百貨店やマルシェ、ギャラリーでの展示販売、出張ワークショップと町から町へと飛び回る渡邉さん。日本茶カフェでのワークショップを覗くと、材料は16本の経糸がかけられた段ボール製の織り機と裂き布だけ。シャトルの様な板で糸を交互にとると、織り機と同じように糸のトンネルができる。学校で一番最初に習った手織りの基礎だというこの体験、参加者が思い思いの布や革紐を手にとり織りあげていた。

アトリエでの手織り体験は、ずらりと並ぶ糸から5種類を選び、セット済の本物の織り機で織っていく。見よう見まねで手足を動かし「ガッシャン」「トントン」踏木と緯糸の配色の切り替え次第で織り柄も様々に、2時間ほどで織りあがり、コースターが2つ完成した。5本のうち4本は渡邉さんが使ったことがないという渋い色合い。「自分では考えつかないものができるのが、教室は面白いですね。新鮮な驚きがいつもあって」と、笑顔でコースターを眺めていた。

手織り、で糸と人と繋ぐ

「booworksの商品は、誰かの手が加わることでよりあたたかみが増すんです」という渡邉さん。「自分が織る生地だけでは決してできない」という言葉のとおり、手織りのブローチやコースター、鞄、ポーチ、ペンケースなど、それぞれ別の作家さんとのコラボレーションを経て、商品として生まれている。アウトドアショップのオーナーさんからの一声で作った「ワタシの!おやまブローチ」など、人との出会いの中で生まれた商品もある。

中には、作業所さんに糸巻きをお願いしている「いろ糸かわり糸」や、別の作業所さんの織物と製本屋さんが繋がり生まれたノートなど、渡邉さんプロデュースの商品も。出店先で出会った作家さんの器やアクセサリー、紙雑貨も一緒に並んだ店内を巡りながら「手織りから生まれたこの繋がりが僕の財産、大切なものですね」と一言。一つひとつがbooworksの立ち上げから5年で繋いできた、糸と人そのものだった。

僕が手織りする意味

手織りの道を歩み始めて十数年。「手織り始めた頃を振り返って、何か変化はありますか?」と尋ねると「よりたくさんの人に出会いたいなと思うようになりましたね」と渡邉さん。例えば同じ3万円を売り上げるなら、今は3万円のものが1個よりも、100円のものが300個売れる方をとりたい。「単純に300人と話せたら楽しいやんって」手織りが間にあることで、その人のことを知れたり、もしかしたら仲良くなって繋がっていくかもしれない。その出会いが楽しいし面白いと、笑顔で答えてくれた。

最後に「これから先の夢はありますか?」と尋ねると、いつかは百貨店やショッピングモールのテナントとしても勝負できたら、という言葉が返ってきた。「より多くの人に出会える場でも見てもらうことでこそ、僕が手織りする意味を残せる気もして」もっと色んな人に、手織りに触れてもらいたい。それには作り方も含めてもっと変えていかないと…という言葉にこめられた、静かで強い想いを預かり、その日の取材を終えた。

「繋ぎます」から「繋いでいます」へ

取材を終えた2月の末から2か月ちょっと。お互い出店や取材で飛び回り、GWが明けてようやく一息。「名刺を変えました」というメッセージが気になって久々にお店を覗くと、新しい名刺には「手織りで、糸と人を繋いでいます」の一言があった。「宣言というより進行形かなと思って」といただいたその1枚が、最後の1ページにおさまり完成した渡邉さんの『掌の記憶』。この一篇がまた新たな繋がりのきっかけになることを願いながら、本を贈ります。

>>掌の記憶(服部)はこちら
>>写真帖はこちら

取材後記

服部の商店街にあるアトリエショップに立ち寄ると、いつも「あ、こんにちは」と笑顔で迎えてくださるbooworksの渡邉さん。綴じたい本にあう手紡ぎの糸を探して、お店にある木箱をごそごそと覗きながらお話をするという緩やかな繋がりが1年ほど。伝統的な職人魂の宿った「手織り」でありながら、どこまでも軽やかな渡邉さんの言葉や作品に、触れれば触れるほどに不思議な感覚を覚えていました。

そのうちに渡邉さんに声をかけてもらった手作り市で色んな作家さんと出会ったり、実際に織っている様子やワークショップの様子を写真さめたり、教室で手織りの体験をしたり。渡邉さんの足跡やそれぞれの商品の物語にも触れるうちに「手織り、で糸と人を繋いでいます」という渡邉さんの言葉を、実感をもって受け取ることができるようになった気がします。そんな実感を少しでもお届けしたくて綴じた、渡邉さんの「掌の記憶」。手織りから生まれる出会いがさらに広がるようにと想いをこめて、この本を贈ります。

Writing,Photo :藤田理代(michi-siruve)
2017年1~5月取材
*Special Thanks booworks

関連記事