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2016-06-14

旅の記憶 – 花小金井 –

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21年ぶりの故郷

「故郷」という言葉に対して抱く複雑な想いと喪失感は、今から21年前の1995年まで遡る。阪神淡路大震災で西宮の祖父母宅が全壊し、10歳だった私は生まれ育った東京の花小金井から、震災直後の兵庫県西宮市へ。多くの命や記憶が失われた町を目の前にして、それまでの価値観は崩れ、せめて失われたものに触れて傷つけることのないようにとそっと15年を過ごした。

結婚を機に西宮を離れ、数年後にがんを患い闘病。「もう一度故郷の桜が観たい」という私の一言で妹が拾ってきてくれた故郷の桜の花びらは、一番の御守りだった。

治療後2度目の春を前に「故郷の桜に会いに行こう」と準備を進めていた頃に、町の地図を元に記憶を辿る「日常記憶地図」を主宰するサトウアヤコさんと出会いもあり、記憶はより鮮明なものに。その記憶の欠片を握りしめて母校の小学校に連絡を取り、2016年春、町を離れて21年の節目に故郷の花小金井へと向かった。

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桜のまち、花小金井

東京都小平市花小金井。都心から電車に揺られて西へ1時間弱、桜の名所小金井公園にほど近い長閑な景色の残る町。

駅を降りて天高く続く遊歩道の桜のトンネルを抜け、昔住んでいた家の周辺へ向かう。社宅はとうに取り壊され、よくおつかいにいった商店街のお店はほとんど閉まり、商店街の外れにあった桜の老樹も切り株に。その先に20棟近くの建物があった電々東団地は広大な更地になり、騒音計が掲げられた塀に覆われ工事が進んでいた。

商店街に残るお店の女性に昔住んでいたことを告げると「すっかり変わったでしょう」と桜の切り株の話になった。町に溢れる桜は、私以外の人にとっても大切な存在だった。

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切り株を横目に工事用の高い塀沿いを歩くと、懐かしい桜の老樹が数本、塀の向こう側から桜吹雪を落としていた。ショベルカーの3倍近い高さの老樹、残してくれた木もあったのかと、少しだけ嬉しくなった。

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一本道の先の老樹

庭のように遊んだ桜の名所、小金井公園。雨でけぶる視界の先は、桜のシーズンとは思えないほど人っ子一人見当たらず、雨音と鳥の声だけが響く。

細長い一本道の先で静かに迎えてくれた大きな桜。故郷で唯一変わらぬその老樹の前に立つと、過去と現在が交錯する。しばし佇み、また会えた嬉しさをこめてシャッターを押す。時々写り込む雨傘を差した通行人に昔の記憶を重ねながら、来た道を帰った。

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母がよく出前をとっていたうどん屋さんに立ち寄ると、おかみさんが奥のご主人に声かけてくれた。丸い眼鏡に優しい笑顔は変わらず。配達バイクの音や、蓋をしたラップの熱さまで昔話に花が咲く。「たまにこうして来てくれる方がいて、続けてよかったと思うね」21年ぶりの再会を喜びながら、大好物のたぬきうどんをご馳走になる。雨で冷えた体を温め、また来ますねとお礼を告げて店をあとにした。

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小学校の記憶

母校の小学校へ向かうにつれてさらに雨足が強くなり、雨傘とカッパの甲斐もなく全身ずぶ濡れに。副校長先生と校長先生が優しく迎えてくださり、21年ぶりの校内を巡る。

「あなたも写っているかしら?」と案内された渡り廊下の写真。1994年、30周年記念の航空写真だった。22年前の自分に向けてシャッターを押す。取り壊された商店街のお店や町の航空写真も並んでいて、思わぬ場所での記憶との再会に嬉しくなった。

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図書室の紙芝居、体育館の校歌、秘密基地を作った中庭。七不思議の手形の塔やはにわ、理科室、音楽室、女子トイレ…。夕方に覗くと吸い込まれると言われていた鏡だけは、カメラを向けると不思議な感覚になった。耐震工事や生徒数の減少で形を変えた部分はあっても、今も変わらず迎えてくださる先生のいる「学校」という場所は、かけがえのない存在だった。

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先生との思い出と初めてのZINE

通学路の途中にある、小児科の先生の診療所兼お宅に立ち寄る。祖父と同じ歳で、10年前に就活面接で上京し、突然訪れた大学生の私を「全然変わらないね」と孫のように迎え入れてくれた。「理代ちゃんなら大丈夫」と明るい笑顔で励ましてくれたことを思い出す。整えられた植木は変わらないものの、チャイムに返事はなく、すりガラスから覗いた玄関に生活感はない。会えなかったことよりも、前に会えた喜びを噛みしめて先生のお宅を後にした。

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最後に良く通った図書館へ立ち寄ると、どうも記憶の中の地図と一致しない。この21年の間に、高校の跡地へと移転したらしい。貸出窓口で配布されていた市の歴史を綴った冊子が大好きで全巻持っていたけれど、その冊子を知る人ももういない。今思うと、郷土愛に溢れた手書き原稿が色紙にコピーされたあの冊子は、私が人生で初めて触れたZINEかもしれない。

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故郷のお守り

大阪に戻り、大量の写真と記憶を振り返る。変わってしまった景色でも、記憶を重ねながら自分のまなざしで写真におさめ、自分の言葉を添えて綴じると不思議と心が静まり、今の故郷と自分の記憶として、いつでも手にとり触れることのできるお守りのような本になった。初めてきちんと綴じた故郷の記憶。この1冊が、また誰かの記憶を綴じるきっかけになることを願いながら、ここに贈ります。

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Interview,Writing,Photo :藤田理代(michi-siruve)
2016年4月取材
*Special Thanks 日常記憶地図

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