*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
竹取物語
「竹取物語を原案に舞台のプロットを書いてみない?」とデザイナーの小林栄子先生からお声がけいただいたのは、2015年の12月。2016年に予定されている美・JAPON京都公演の打ち合わせ帰りに、大阪でお会いした時のことだった。
クリスマス目前の難波の通りを歩きながら伺う、2016年4月のゲント花博オープニング公演の案。草月流と竹をイメージした舞台を創り、かぐや姫を主人公に竹取物語の世界に、平安時代の十二単から江戸、明治、大正、昭和の着物とドレスを重ねるという。
キーワードは「過去から未来の流れを創りたい」という言葉。衣を残して天へ戻るかぐや姫と、残されたアンティーク着物に宿る心を大切に創作する栄子先生の想いを1つの物語にするのはどうかと話がまとまり、年明けにプロットをお贈りした。
5年ぶりの日本公演
2016年4月5日。今回日本公演が開催される相模女子グリーンホールは、小田急線の相模大野駅にほど近い伊勢丹に隣接するホール。1990年に伊勢丹とホールのこけら落とし公演として、栄子先生がファッションショーをプロデュースした想い出の会場でもある。
それから26年。美・JAPONベルギー公演のプレ公演として約5年ぶりとなる日本国内公演の会場となり、朝の9時からスタッフや出演者が集い、19時の開演に向けて準備が進められていた。
舞台上では設営が着々と進み、舞台裏の楽屋ではヘアメイクや和装の着付けなど、スタッフが慌ただしく行き来する。
十二単や和装用の鬘、ドレスと同じ柄のネイルアートの作品まで、楽屋には様々な時代のアーティストによる和洋の華が咲いていた。
スタッフのハルさんが楽屋で最終調整していた淡い水色のドレスは、染色家の方との新作。「この柄、全部織り柄なのよ」裏表と返しながら繊細な柄に驚いていると、後ろでダンサー 良香さんの新作衣装の調整も始まった。
纏って動く様子を確認しながら、栄子先生がバランスを見て花を縫い付ける。あっという間に通し稽古の時刻になり、皆が上手下手に散りリハーサルが始まった。
そぎ落とし、彩りを加える
「素明かりだけではちょっとつまらないから、バッグにもう少し色を入れて」「全体はもう少しぼやっと暗い感じで」1度目の通し稽古が一区切りすると、スタッフや出演者1人1人に栄子先生が言葉をかける。そぎ落とすところと彩りを加えるところのバランスを見ながらの微調整が繰り返される。
「舞台に絵を描くように自由に動いて」「泳ぐように布を魅せて」「この位置で1回着物を魅せる」「指先に視線を固定して、すっと正面を向く」
和やかに言葉を交わしながら、アドバイス1つでドレスの布地がよりいっそう生き生きと舞い、笑顔が生まれていた。
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan
今回の舞台で要となる「衣の精」。着物に宿る想いと歴史を知る先導役として、過去から未来までの様々な着物を纏う人々を呼び覚まし、舞台へと導いていった。
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
衣の精に導かれて舞台に登場するかぐや姫。この公演のために手配した十二単の重さは約10kg、その重みを一切感じさせず、幻のように過去、現在、未来の3時代を美しく通り過ぎていく。
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
時代もデザインも色合いも様々なドレスたち。舞台袖で静かに眠っていた衣装が、舞台の上で風をはらみ光の粒子を通しながら美しく舞い、目の前を通り過ぎる衣の流れが「時の流れ」そのものを感じさせる。
纏う「人」があってこその流れを写真におさめながら、その本質を捉える感性と表現力をもった出演者の方々の所作の美しさに息をのんだひと時だった。
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
*Beyond Kimono 2016 Pre Performance in Japan(2016.4.5)
衣に宿るもの
物語の終盤、月の世界へ戻るかぐや姫が去り際に遺した真っ白な衣を「衣の精」が拾い上げ、舞台上を舞う。最後には舞台上に衣だけが残り、舞台は幕を閉じる。
纏っていた人々が去っても、衣に宿した想いは残り、時代を超えて袖を通す人々が繋いでいく。アンティーク着物という衣に宿る日本人の心や文化を、海外そして次の時代にも伝えていきたいという栄子先生の想いも込められた、竹取物語の世界だった。
唯一の晴れ舞台
「このステージが、唯一の晴れ舞台です」開演に先立って観客の皆さまに伝えられていた栄子先生のスピーチ。
元々は4月末のベルギー ゲント花博のオープニングステージを飾る予定だったこの公演。世界情勢を受けて出演辞退が決まり、相模大野公演が唯一のお披露目となったのだ。
そんな晴れ舞台の1日を綴じた、栄子先生の「掌の記憶」。様々な想いを宿して世界を舞う衣の記憶を、ここに贈ります。
Interview,Writing,Photo :藤田理代(michi-siruve)
2016年4月取材
*Special Thanks Eiko Kobayashi