旅の記憶 – 淡路島 –

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『小豆本』から生まれた「掌の記憶」

2015年1月。祖母の遺品を綴じたZINEの企画展用に、ガラスペンを譲っていただいた淡路島の骨董店 小豆堂さん。

骨董への愛着から、過去10年でWebショップで販売した骨董のサムネイル写真も全部残していて、今でもよく眺めているという話に。約1,700点の写真を預かり、掌サイズの豆本『小豆本』として綴じて全13巻にしてお贈りした。

秋に東京で開催されたTHE TOKYO ART BOOK FAIRのブースでも展示すると、国内外からのお客様からも譲って欲しいと声があがり、年末にはノベルティとして縮刷版を小豆堂さんのお客様へお贈りすることに。サムネイルから生まれた豆本がどんどん広がっていった。

小豆堂さんの10年間の足跡と、日本の暮らしの記憶が連なる小さな本。掌で大切にされるその形は「掌の記憶」へと引き継がれ、日本の町を巡る旅も始まった。

そのお礼も込めて小豆堂さんの記憶も綴じてお贈りしようと2016年5月、淡路島にある小豆堂さんのお店へと向かった。

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小豆堂 – komamedou –

三宮から高速バスで明石海峡大橋を渡り、海を眺めながら東浦バスターミナルまで1時間弱。藍色のテントが目印の小豆堂までは、道沿いをまっすぐ徒歩10分ほど。明るい店内に並ぶ小さな骨董たちとオーナーの藍子さんが迎えてくれた。

祖父の代から骨董に関わる仕事をしていたという藍子さんのお家。「食卓に青い染付の器が並ぶのは当たり前。今思うと古いものに囲まれた暮らしの中で育っていたな」と振り返る。

1つのお店を続けてきた訳ではなく、祖父も父も違う町でお店持った。藍子さんも2005年にWebショップの小豆堂をはじめ、それぞれが思い入れのある骨董を扱ってきた。「少し控えめで、気がつけばいつも傍にあるような小さなものが大好き」。お店の名前の由来も交えて、目の前にある骨董を嬉しそうに眺めながら教えてくれる藍子さん。本当に好きなものを笑顔で語る人の言葉は、聴いている方も嬉しくなる。

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時代の空気を纏う骨董

江戸時代の吹きガラスの簪、明治時代のコバルトブルーの印判、うねりや気泡の残る大正時代のガラス瓶、戦時中の代用品だった陶器製のカトラリー、戦後の動物人形…各々の時代の素材と技術で作られた骨董は、その時代の空気を纏っている。

「例えば江戸時代の器なら、江戸時代の職人さんが作ってずっと使われてきたもので。その時代のことを知ってるんだと思うとすごいなって」と目を輝かせる藍子さん。骨董へのまなざしは、Webショップに添えられた言葉1つ、写真1枚からも自然と伝わってくる。

「いつなくなってしまっても不思議ではないけれど、私が次の方に繋いで、その方も大切に使ってくださって、私の知らない未来にも存在してくれたらいいなって」。架け橋として次の時代に繋げていきたいという藍子さんの想いは「掌の記憶」にも重なるところがあった。

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暮らしに寄り添う骨董

器も小物も遠い昔のものとは思えないほど、すっと暮らしの中に馴染む小豆堂さんの骨董。「今の暮らしの中で使ってもらいたい」という想いは10年前から変わらず、現代の器と合わせやすいサイズやデザインをイメージしながら仕入れている。

一番嬉しいのは、お客様から実際に使っている写真や便りが届くこと。知り合いのギャラリーで骨董の企画展を開いてからはお客様に直接会って手渡す感覚も嬉しくなり、大阪や神戸などの催事や企画展にも出店するようになった。

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2014年に淡路島でお店を始めたのは、数年前に一足先に移住していたご両親と暮らそうと引っ越したことがきっかけ。お父様のお店にあったお気に入りの棚とテーブル、脚付のガラスケースを譲り受け、初めてお店を持った。

「父から学んだことは多い」という藍子さん。Webショップや催事への出店も続けながら、気に入ったものを仕入れては紹介しての繰り返し。気付けば今年の夏で丸2年を迎える。

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大切なコレクション

仕入れをしながら自分も欲しいなと思うものがあっても、自分の手元には置かないという藍子さん。沢山の方に紹介してお気に入りを見つけて頂けたら嬉しいからと、実際に気に入って使っている器は傷物がほとんど。「特別高いものでも古いものでもなかったりするんですけど」と、6点の大切なコレクションを見せてくださった。

小さな象の置物、白クマのコースターは大好きだという動物モチーフの小物。小豆堂を始めた頃に大阪の露店で出会った小さながま口のコインケースは使わずにずっと眺めて大切にしていて、4年ほど前に見つけた大正時代のガラスの小鉢はヨーグルトやサラダなどで毎日使っている。

幕末の小さなグラスは「鉛が入っているから高い音がするんです」とキーンと淵を鳴らしてくれた。お酒を注ぐと本当に綺麗だという桔梗型の瑠璃釉の盃は、お水を注ぐと瑠璃がいっそう深まり、覗き込むと澄んだ湖のような色が広がっていた。

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レジ横の2冊の豆本

レジの横で丁寧に紹介文が添えられた2冊の小豆本。1冊は最初の試作品で、作り方も見本もなく手探りで綴じたガタガタの本。それは試作品なのでと新しいものをお贈りした後も「これも好きだから」と2冊とも並べてくださっていて、馴染んだ表紙からたくさん手にとってくださったことが分かり嬉しくなる。

出会ったものはずっと大切にしてくださる小豆堂の「掌の記憶」。掌から掌へ繋ぐ1冊を、ここに贈ります。

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Interview,Writing,Photo :藤田理代(michi-siruve
2016年5月取材
*Special Thanks 小豆堂

*小豆堂さんは福岡への移住が決まり、2018年3月末で実店舗を閉店されるそうです。
詳しくは小豆堂さんのfacebookページをご覧ください。

 

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